●万願寺とうがらし(万願寺唐辛子)の来歴や特徴

◆万願寺とうがらしとは

  万願寺とうがらしは京都府北部の舞鶴郊外にある満願寺地区において大正末期ごろから作られてきた甘とうがらしの一種で、味の良さと大きさから「とうがらしの王様」ともいわれ、今ではこのタイプの大きな唐辛子の代名詞となっています。

 その中でも、本場で作られている「万願寺甘とう」は産地で採種される固定種で、選果されて高い品質を守ることで「ブランド京野菜」の一つにもなっています。ただ、『明治以前に導入されたもの』という基準を満たさないため「京の伝統野菜」には入っていません。

◆万願寺とうがらしの来歴

 万願寺とうがらしは京都で古くから作られていた「伏見とうがらし」とアメリカから入ってきた「カリフォルニア・ワンダー」(ピーマン)が自然交雑して生まれたと考えられ、舞鶴の万願寺地区でそれ以降地元消費用に作り続けてこられたので、この地区名をとって「万願寺とうがらし」と呼ばれるようになりました。地元では「万願寺甘」と呼ばれているそうです。

万願寺甘とう JA京都にのくに

 味の良さや外見、京野菜的なイメージなどもあり「万願寺とうがらし」という名称はこのタイプの唐辛子の代名詞として使われるようになり、現在、様々な種苗メーカーから「万願寺とうがらし」として種が販売され、全国各地で「万願寺とうがらし」として栽培出荷もおこなわれています。

 しかし、本来の産地である舞鶴市・綾部市・福知山市で作られているものとは似て異なるものです。

◆ブランド京野菜の「万願寺甘とう」は辛い物や色付いたものが激減

 在来種の万願寺とうがらしは獅子とうがらしがそうであるように時々辛い物が出来たり、紫色に発色するものが出来たりしていました。その後京都府が品種改良を進め、2007年に「京都万願寺1号」が品種登録。更に2011年に「京都万願寺2号」が品種登録され2012年頃にはJA京都にのくに管内(舞鶴市・綾部市・福知山市)の露地物のすべてがこの新しい品種に切り替えられ、辛い物や紫色に色付くものがほとんどなくなったとの事です。

万願寺甘とう JA京都にのくに

◆「万願寺甘とう」の特徴

 写真のものは本場で作られている正真正銘の「万願寺甘とう」です。

 形は細長く長さ20cmを超えます。出荷されるサイズは13~23cmとされ、サイズによって分けられるほか、大きくて曲がりが少ないものだけが「秀品」とされ「ブランド京野菜」として出荷されます。曲がりが大きいものやサイズが小さいものは安くスーパーなどにも並びます。

 肩の部分のくびれが特徴的で色は濃い緑色。果皮表面はピーマンのようにつるっとしているわけではなく、少ししわがあるような感じになっていますが、やわらかくしなびているわけではなくしっかりとした硬さがあります。

万願寺甘とう JA京都にのくに

 農林水産省の品種登録データベースには果実の特性が以下の通り記載されています。

『未熟果の色は緑、果実の着生の向きは垂れる、果実の長さは極長、果実の直径は中、果実の長さ/直径は極大、果実の縦断面の形は狭三角形、果実の表面の粗滑は少し粗い、成熟果の色は赤、果実の光沢の強弱はやや強、果実のこうあの有無は無、果実の先端の形はやや鋭、果実の条溝の深さはかなり浅、果実の心室数は2室と3室が同程度、果肉の厚さは中、胎座のカプサイシンの有無は無、成熟期は中である。

 出願品種「京都万願寺2号」は、対照品種「京都万願寺1号」と比較して、果実の長さ/直径が極大であること、果実基部の果皮の波打ちの強弱が強であること等で区別性が認められる。』

◆万願寺とうがらしの食べ方

 万願寺とうがらしは辛味がなく、ほんのり甘味があり素焼きにして生姜醤油やだし醤油で食べると格別に美味しいです。

万願寺甘とう JA京都にのくに

 また、天ぷらなどの揚げ物、煮物でも美味しく食べられます。

 細長い形を活かし、肉などを巻いて焼いても美味しい他、中にひき肉などの詰め物をして焼いたり揚げることもできます。

 京のおばんさいでよく目にするのは焼いたり揚げて出汁に浸したものや、ジャコとたいたん(ちりめんじゃこと一緒に炒めてから酒、みりん、水を加えて軽く煮たもの)なづ。

◆赤万願寺とうがらし

赤万願寺とうがらし

 万願寺唐辛子は通常緑色の状態で収穫されますが、収穫を遅らせ、木になったままにしておくとピーマンと同じように赤く色付きます。こうして赤くなってから収穫された万願寺唐辛子は「赤万願寺」と呼ばれ市場にも出回ります。赤いと辛そうな印象を持つかもしれませんが、パプリカのようにほんのりと甘みが感じられ、彩りもよく美味しいものです。ただ、栽培期間が長くなり、また、手間もかかるのでその分高めの値段が付いています。

●万願寺とうがらしの旬は初夏から夏です

◆万願寺とうがらしの主な産地

 「京のブランド産品」として扱われている「万願寺甘とう」は地域団体商標として登録された商品名で、原産地の舞鶴市をはじめ、JA京都にのくに管内の綾部市や福知山市で栽培されていますが、万願寺とうがらしそのものは現在では日本各地で作られるようになりました。種や苗も各地で売られているので、家庭菜園でも気軽に作る事が出来ます。

 また、「万願寺甘とう」は2017(平成29)年に「地理的表示保護制度」に登録されGI(地理的表示)マークが付けられています。

◆旬の時期

 万願寺とうがらしはハウス栽培などで通年出回りますが、太陽をいっぱい浴びた露地物の唐辛子は主に初夏の5月上旬頃からから9月下旬頃にかけて収穫されます。旬は6月から8月にかけての夏です。

 「万願寺甘とう」も例年5月20日前後から出荷が始まり10月頃まで続きます。

品種 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
万願寺甘とう                        
万願寺とうがらし                        
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