開発の家庭は以下の通りです。
1999年 「とちおとめ」に「章姫」の花粉を交配し、得られた109個の実生を定植
2000年 頂果房の収穫開始日や果実の食味で16系統を選抜
2001年 収穫初めから 2月までの初期収量、果実硬度、糖度などの果実品質、食味調査で2系統を選抜
2002年 果重、食味等に憂れる「9921」を選抜し、「生研 5号」として系統番号を付 与し園芸研究所に適応性検定を依頼
2003年 「ひたち2号」として系統番号を付与し現 地適応性試験および市場性評価実施
2005年 7月に種苗法による品種登録を出願
2009年 2月に「ひたち媛」として品種登録された。
品種名は『”ひたちの国の姫”という女性的なイメージで、生産者や消費者に親しみを持ってもらえるように』という思いが込められているそうです。
「ひたち姫」は茨城県オリジナル品種で、生産者が少なく県内以外の一般市場にはほとんど出回らない希少なイチゴです。
◆ひたち姫の特徴
「ひたち姫」は粒がやや大きめで15g以上の割合が多く、「章姫」の特性を受け継いだ縦長の円錐形で、果皮の色は艶のある濃赤色で「とちおとめ」の特性に近いです。痩果(そうか)=表面の種のように見える粒、の落ち込みが小さいため果実表面に粒が半分出ているようなものも多いです。
果肉は白に近い淡紅で果芯の空洞は比較的できにくいとされています。果肉の硬さは「章姫」よりは硬いですが「とちおとめ」ほど硬くはなく、輸送性や棚持ちは「とちおとめ」より低いようです。
食味は糖度に対して酸味が少ない傾向があり、甘味をより強く感じるタイプとなっています。
農林水産省の品種登録データベースには以下の通り記載されています。
『-----
果実の縦横比はかなり縦長、果実の大きさはやや大、果形は長円錐、
果皮の色は濃紅、果実の光沢は強、そう果の落ち込みは小、
がく片の着き方は反転、果径に対するがく片の大きさはかなり大、
果実の硬さは極硬、果肉色は鮮紅、果心の色は淡赤、果実の空洞は無~極小、
季性は一季成りである。
出願品種「ひたち姫」は、対照品種「章姫」と比較して、草姿が中間であること、果皮の色が濃紅であること、果心の色が淡赤であること等で区別性が認められる。
対照品種「山口ST9号」と比較して、頂小葉の基部の形が鋭角であること、果皮の色が濃紅であること、果肉色が鮮紅であること等で区別性が認められる。
-----』
◆実際に食べてみたひたち姫の食味
今回撮影・試食した「ひたち姫」は3月初旬に茨城県常陸大宮市のいちごBOXさんから購入したものです。
イチゴは贈答用などに使われる一粒一粒ポケットになっている容器ではなく、スーパーに並ぶような透明パックに詰められたもの1ケース4pc入りで届きました。それにもかかわらず、イチゴはどれもほぼ傷みなしでした。イチゴが傷みやすくなるこの時期にこれだけ輸送性が高いとは驚きでした。
イチゴはヘタの脇まで綺麗に着色しイチゴらしい香りも強めに出ていました。
食べてみると、サクッとしっかりとした歯触りが感じられ、長旅にも耐えられた事も納得。果汁は滴る感じではありませんが強い甘みが口に広がり、思わずおおーっ!と声が出てしまいました。酸味が控えめな分、やはり甘味が前面に出てきています。試しに糖度を計ってみるとどれも16度前後ありました。
今回試食した「ひたち姫」は一般的なイチゴに比べ果汁が少なく感じました。その分甘みが強く、濃縮されているような印象を受けました。
後日冷蔵庫でしっかりと冷やした状態で食べてみたところ、冷やしたことで感じる甘味が弱くなり、逆に酸味が活きてこれはこれで私好みの甘酸っぱい味わいが楽しめました。
●ひたち姫の選び方と保存方法と用途
◆選び方
全体に赤く色付き、ヘタ近くなどにまだ白っぽい部分が残っていないもの、香りがしっかりと経っているものが良く熟して美味しいイチゴです。
◆保存方法
いちご狩りでとってきたものや、直売所でその日に収穫されたものであれば、出来れば冷蔵庫ではなく冷暗所に置いておき、翌日くらいには食べきるようにしたいところです。
それ以上長期間保存したい場合は冷蔵庫の野菜室に入れておきましょう。その際、乾燥しないようパックごとポリ袋などにいれておく方がいいです。
いずれにしても、水洗いは食べる直前までせず、ヘタを付けたまま洗います。
◆縦長で強い甘みが持ち味
「ひたち姫」は縦長の形で首の部分が細くなっていてヘタが切り落としやすいことと、酸味が少なく甘味が前面に感じられるのが持ち味です。
甘味が強いのでそのまま食べてももちろんおいしいです。
また、香りもいいので、色々なスイーツに使うのも良いでしょう。
●ひたち姫の主な産地と旬
◆主な産地と生産量
「ひたち姫」は茨城県オリジナル品種として、茨城県内でのみ栽培出荷されています。
しかし、デビュー当時から茨城県では「とちおとめ」が主力品種となっており、本種を栽培する生産者は少なく、その後に登場した茨城県のオリジナル品種である「いばらキッス」の方が生産量が多く認知度も高くなっており、茨城県内でも希少な品種となっているようです。
◆ひたち姫の収穫時期と旬
「ひたち姫」は促成栽培向け品種で、収穫は12月~5月にかけて可能となっています。
収穫最盛期で食べ頃の旬は1月中旬頃から3月ごろです。
「ひたち姫」はとちおとめに比べ果肉が柔らかめであることから、直売所やいちご狩りに向いた品種だと思われます。春のいちご狩りに、この品種を扱っている観光農園を探して行ってみたいところです。
品種 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
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ひたち姫 |
< 出 典 >
※ 「イチゴ新品種‘ひたち姫’の育成」茨城県農業総合センター生物工学研究所研究報告 11号 p. 9-14 2009年3月
※ 「大果で甘味の強い促成イチゴ新品種「ひたち姫」の育成」茨城農総セ・生物工学研究所・野菜育種研究室、園芸研究所・野菜研究室 農研機構ホームページ
※ 品種登録データベース 農林水産省ホームページ