●ニシンの生態や特徴
◆ニシンとは
分類:魚類 > 条鰭綱 > ニシン目 > ニシン科 > ニシン属(日本海洋データセンターより)
学名:Clupea pallasii Valenciennes, 1847
和名:にしん/鰊
英名:Pacific herring
別名:春告魚(はるつげうお)
ニシンはイワシなどと同様、自然界における資源量ははかり知れませんが、大型魚などの餌として非常に重要であり、また人にとっても食材としてだけでなく、古くから飼料用や肥料用、魚粉や魚油などの原料として利用されておりとても重要な魚の一つである。
かつては産地以外では身欠きニシンのような干物しか流通していなかったが、現在では遠隔地である関東や関西でも刺身で食べられるほど新鮮な状態の鮮魚が市場に並ぶようになった。筆者も若い頃にニシンと言えばニシンそばの、身欠きニシンを甘辛く煮た物というイメージしかなかったが、初めてニシンを刺身で頂いた時はその美味しさに感動したものだ。
この「ニシン」という名の由来にはいくつかの説があるようだが、主なものは身欠きにしんを作る際、身を二つに割ることから、身が二つという意味で「二身(にしん)」となったと伝えられている。
また、漢字では「鰊」”魚”へんに”柬”と書き、”柬”は『えらぶ、選り分ける』という意味がある。また、この字を略したような「鰊」”魚”へんに”東”と書く事もあり、こちらは江戸から見て東の東北や北海道で獲れる魚ということからこの字があてられたようだ。また、他にも「鯡」”魚”へんに”非”と書く字も使われるが、これはニシンの歴史の部分で後述する。
◆ニシン/鰊の歴史
江戸時代後期あたりは北海道でニシンが大量に獲れ、当時の松前藩はコメが取れないので代わりにニシンの干物、身欠きニシンを年貢として納めていたという記録がある。その時に『これは魚に非ず、海の米なり」と言ったとか。そこから魚偏に非を付け、「鯡」という字を使ったといわれている。
また、大量に獲れたニシンは食用だけではなく、脂を絞ったり、搾りかすを「鰊粕」と呼ばれる肥料として北前船で内地に運び、大きな収入源となっていたようだ。これは明治、大正、昭和初期まで続いた。
当時今日のような物流が発達していない時代、北海道から物を運ぶのに北前船が非常に大きな働きをしていた。この船に乗せられ、ニシンも身欠きにしんなどに加工されたものが内陸部にまで運び込まれ、山間部での貴重な食糧減となっていた。
◆ニシンの生態
ニシンは冷たい海域に棲むニシン目ニシン科の回遊魚で日本では富山以北、太平洋側では犬吠埼以北に分布し、動物性プランクトンやオキアミ類を食べながら回遊する。また、この種は北部太平洋をまたいでアラスカからカナダ、カリフォルニア北部辺りまで広い海域に生息している。
一方、大西洋側にもニシンがおり、外観はほとんど変わらないが、産卵環境や生態が違うことから区別され、日本でも捕れる太平洋側のニシンを太平洋ニシン(パシフィックヘリング/Pacific herring)、大西洋沿岸に生息するものを大西洋ニシン(アトランティックヘリング/Atlantic herring)と呼ぶ。
「日本産魚類検索全種の同定第三版」によると産卵期に群れで沿岸域に回遊。沿岸の浅海域の海藻が繁茂した所に産卵する。
日本近海での分布は北海道西岸、北海道風蓮湖・能取湖付近、青森県尾駮沼付近、宮城県万石浦付近、茨城県涸沼付近、相模湾(稀)(かつては富山湾以北・三陸地方以北に群れが来遊)とある。また、海外においては朝鮮半島東岸、済州島、渤海、黄海、オホーツク海、ベーリング海、北極海〜バレンツ海南西部・白海、アラスカ湾〜カリフォルニア半島に分布する。
◆群来(くき)とニシン/鰊の産卵
北海道沿岸では春になるとニシンの大群が産卵のため浅瀬に押し寄せ、アマモやコンブなどの海藻類に粘着性の卵を産み付ける。メスの産卵が始まると産卵したところにオスが精子を放出するのだが、大群で一斉に行われるためその辺り一面が白濁する。この海の色が白く変わる現象を地元の人たちは群来(くき)と呼ぶ。
ニシンの卵は粘着性があり、昆布などの海藻にびっしりと張り付くのだが、この昆布が寿司ネタにもなる子持ち昆布となる。
◆ニシン/鰊の特徴
ニシンは標準体長35cm程で、大きいものだと45cmになる。体形はやや側扁し、体高はあまり高くはならず細長い。背ビレはやや小さめのものが1か所だけにあり、尾ビレは真ん中で大きく切れ込みが入っている。
体色は背側は青黒色、腹側は銀白色で、全体が薄く透明のウロコで覆われている。このウロコははがれやすく、漁獲時にはがれてしまうものも多く、ほとんど残っていない魚体も見かける。
◆カズノコと白子
ニシンの漁獲は産卵のため沿岸によって来た時に行われるので、腹に卵や白子を持つものが多い。このニシンの卵巣がカズノコになる。「ニシンの子」なのになぜ「カズの子」になるのか?それはニシンがアイヌの名称では『カド』と呼ばれ、「カドの子」が訛ってカズノコになったとされている。
●ニシン/鰊の主な産地と旬
◆主な産地と生産量
ニシンは主に刺網漁や巻網漁によって漁獲されています。
明治末期から大正期の最盛期には北海道で100万トン近くも獲れた記録が残っている。ところがその後どんどん減り、現在の平成27年産はというと全国の水揚げ量はたったの4700トン(うち北海道産は99.5%)となっている。
国内で漁獲されたものは主に鮮魚として出荷され、身欠きにしんやカズノコなど古くからの加工品は今やそのほとんどが輸入ものでまかなわれ、国内産のものは高価なものとなっている。
◆ニシンの産卵期と旬
日本付近では春、産卵のために北海道沿岸に現れる。そのため『春告魚』とも呼ばれてきた。北海道・サハリン系群は3月下旬~6月下旬、石狩湾系群は1月下旬~5月上旬が産卵期とみられ、その時期に沿岸に押し寄せる。
石狩湾系のニシンの漁期は1月から4月までで、2~3月に最盛期となり4月に入るとその数は減ってしまう。知床あたりになると1~4月は流氷などで操業できず 漁期は5月~6月になる。
産卵期の3~5月にかけて漁獲量がまとまり、腹に卵や白子を持った美味しいニシンが食べられるので旬と言える。また、魚そのものを味わうと言う意味では、産卵前に十分栄養を蓄えている秋から冬に獲られるものも脂がのっていて身自体がすごく美味しく旬と言える。
旬のカレンダー | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
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石狩産 | ||||||||||||
北海道太平洋沿岸 |
< 出 典 >
※「日本産魚類全種の学名」中坊徹次・平嶋義宏著 東海大出版部
※「日本産魚類検索全種の同定第三版」中坊徹次編 東海大出版会 p.300
※「食材魚貝大百科①」平凡社 p.86-89
※「旬の食材- 春の食材」 -講談社 p.38
※ Clupea pallasii FishBase
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