ハコエビ Linuparus trigonus:生態や特徴と産地や旬
●ハコエビの生態や特徴
◆ハコエビとは
分類:ホンエビ上目 > 十脚目 > 抱卵亜目 > Achelata > イセエビ科 > ハコエビ属(日本海洋データセンターより)
学名:Linuparus trigonus(von Siebold, 1824)
和名:はこえび/箱海老
英名:Sandy-mud spiny lobster、Japanese spear lobster
別名:ゾウエビ(象海老)、ドロエビ(泥海老)
ハコエビはイセエビ科の一種で大型のエビ。和名は甲羅の形状が五角形の箱型であることに因む。かた、その姿からゾウエビという名称や、泥底で獲れることからかドロエビといった名称もつけられている。
学名の属名” Linuparus” は、 ”Palinurus ”(ヨーロッパイセエビ属)のアナグラムとされ、種小名”trigonus” には「三つの角を持つ」という意味がある。
大きな海老で食用にされるが、暖かい海のやや深いところで獲れ、国内ではその数が少なく主に産地で消費され大きな市場にはあまり入ってこない。大きい分食べ応えはあるが、身質は若干水分が多く味的にはイセエビに及ばない。
◆ハコエビの生態
ハコエビは西部太平洋からインド洋に及ぶ熱帯から亜熱帯海域に広く生息し、「原色日本近海産甲殻類図鑑(三宅貞祥著)」によるとハコエビの日本近海の分布は千葉県~九州南部に至る太平洋沿岸、島根県~九州南部に至る日本海・東シナ海沿岸とされ、海外においては黄海、東シナ海、アフリカ東岸、オーストラリア東南沿岸に及んでいる。
日本近海では水深70~120mの泥砂底に多く生息するが、アフリカ東岸などでは水深324mの岩底での生息も確認されているようだ。
ハコエビは硬く長い蝕角を後方に向けることができないので、常に前か横に向けている。また、この蝕角を動かくことで付け根にギイギイと音を発する。
◆ハコエビの特徴
ハコエビの成体は体長は30-40cmほどになる大型のエビで、甲は硬く全体に朱色に近い赤褐色で外縁部など部分的に淡黄色の部分が見られる。
特徴的なのは頭部前方に延びる1対の太く長い平坦な角状の蝕角で、これは第2触角にあたり、伊勢海老などは柔らかいムチ状に曲がるのに対し、ハコエビのは硬く曲がらないうえ、後方には向けることができない。
頭胸甲の棘は小さく、眼上棘は左右が一体化し平たく幅広の額角となり全縁に2対の棘が付いている。頭胸甲は頸溝によって区切られ、前部には正中線にそって1・1・2棘が並び、左右の側縁に3棘がある。後部は断面が正中稜を頂点とする五角形の箱型で和名の由来となっている。
第1~3腹節には横溝があり、第2~5腹節側甲の下縁は前後に幅広になっていて、その前後端と真ん中は尖っている。
●ハコエビの主な産地と旬
◆主な産地と漁獲量
ハコエビは刺し網や底引き網などで他の魚貝に混じって稀に漁獲される程度のようだ。産地で眼にするのは和歌山県、鹿児島県、長崎県など。
かつて1970年頃までは相模湾あたりでもそこそこ獲れていたよう(※1)だが今ではめったに獲れない海老となってしまっており、その他の産地でも同じように激減しているのではないかと思われる。
今回入手したのは宮崎県産。
※1 相模湾産ハコエビについて 神奈川県立生命の星・地球博物館 神奈川自然誌資料より
◆ハコエビの漁獲時期と旬
不定期にまれにしか獲れない海老で旬は不明。
6月上旬に仕入れた写真のものは2個体ともメスで、いずれも卵巣が発達していたので、産卵期は夏と思われる。
旬のカレンダー | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
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ハコエビ | 産 | 卵 | 期 |
●ハコエビの目利きと調理のポイント
◆生きているものがベスト
エビやカニ全般に言えることだが、ハコエビも死んでからの鮮度落ちが早いので生きているのがベスト。ただ、深いところで獲れるエビなので死んでしまっているものも多く、その場合は匂いをチェックしたり、黒ずんだ体液が出始めていないかなどをみる。
◆オストメス
初夏辺りだとメスには赤い内子(卵巣)が詰まっている。オスとメスの見分けるポイントの一つは腹に付いているヒレ状の腹肢で、メスは抱卵できるようにオスよりも大きい。(写真はメスの腹)
また、第5脚の先端がオスのものは他の脚と同じ形状なのに対し、メスのそれは抱卵した卵の世話がしやすいように短い鋏のような形になっている。
◆ハコエビのさばき方
ハコエビをさばく方法は大きく分けて2通り。まず一つ目は正中線に沿って左右真二つに割ってしまう方法、そしてもう一つは頭胸甲から腹節を外し、腹節の身を取り出す方法。
腹節を外すときは腹節側から頭胸甲との隙間に包丁の刃先を差し込み、背側、腹側両方ぐるっと一周させるようにつないでいる膜や筋を切り、腹節を持って身を引き抜くようにはずす。
次に腹側の膜を左右とも甲羅との境をキッチンバサミで切り、膜に張り付いている身を包丁の歯先で削いでいくようにはがしていく。
最後に背側の甲羅から身を崩さないようにゆっくりとはがしていく。
◆調理のポイント
鮮度が良いものは刺身でも美味しく食べられる。奥の左、赤い方は卵巣で、加熱調理して食べると美味しい。
基本的には伊勢海老と同じ食べ方で楽しめる。
●ハコエビの美味しい食べ方と料理
◆ハコエビの刺身
ハコエビの身を殻から外し、縦に判割にして背ワタを取り除き、食べやすい大きさに身を切り分ける。なるべく繊維を切らないように筋肉の房ごとに切り分けていく方が食感が良い。切り分けたものを少し塩を加えた氷水に放ち、水気を切って盛り付ける。写真は1尾の半身分。
イセエビやハコエビは大きさの割に歩留まりが悪いので、頭や尾の殻を一緒に盛り付ける事で豪華さが演出できる。
◆ハコエビのグリル(塩焼き)
ハコエビを判割にし、酒を吹き付けてグリルで焼き上げたもの。ハコエビは火を通すと身がギュッと締まり、ブリっとした食感に焼きあがる。頭の部分の赤い内子も美味しい。
◆ハコエビの中華風酒蒸し
判割にしたハコエビと白ネギ、生姜を鍋に入れ、酒をたっぷりと振りかけて蓋をし、火にかけて蒸しあげる。ハコエビに火が通ったら一旦取り出し、海老を皿に盛り付ける。鍋に残った煮汁に貝柱のスープを加え味を調え、水溶き片栗粉でとろみをつけて海老の上にかける。
これ結構エビの食感も良く美味しい。
◆ハコエビの天ぷら
殻から外したハコエビの身に衣を付けて天ぷらにしたもの。クルマエビなどの天ぷらとは見た目だけでなく食感も少し違い、美味しい。
これを野菜などと共に中華風の炒め物に使ったり、エビチリにしてもいいだろう。