桜も品種によっては咲き始め、いよいよ春ですね。
こだわりぬいた青果を扱うボニートーンの母良田知樹氏とさやかさんのご夫妻から三島独活の収穫現場見学のお誘いをいただき、2月24日早朝に茨木にある千提寺farmに向かった。
「ムロ」の下ですくすく育つ三島独活
茨木市千提寺インター出口で待ち合わせ、そこから母良田氏の車に付いていく形で中井氏の圃場に到着。山裾に開かれた棚田の一角に青いテントが張られた圃場が見えた。

母良田夫妻に続いてテントの中へ入ると、薄暗いその中で収穫作業をされている中井大介氏が顔を出した。
この三島独活は夏にしっかりと葉を茂らせて株に養分を蓄えさせ、冬に独活が休眠に入ってから地上部を刈りこんで株を掘り起こし、遮光されたハウスの中に敷き詰めるように植え替え、その上から干し草とワラを交互に 幾重にもかぶせる。この状態を「むろ」といい、この上から水をかけることで干し草とワラが発酵をはじめ、それと共に熱を発する。この発酵熱によって独活の生育を促し、光を遮った中で成長させることで白くて長い状態になるのだ。このような独活を「軟白独活」という。
昔は軟白独活はみんなこのような作り方をしていたようだが、実はこの栽培方法は自然の力にゆだねるところが多く、良い状態に育て上げるには水加減や温度管理など微妙な調節が必要でとても手間がかかる上にリスクも大きい。そのため、現在では国内で作られている軟白独活は発酵熱の代わりにヒーターを入れ、さらに成長ホルモン剤を投与する手法が主流となっているそうだ。
聞くところでは、今やこの伝統的な栽培方法で生産出荷している農家は全国でも中井氏のただ一軒となっているそうだ。

ハウスの中で「むろ」の下にびっしりと育った三島独活を、腰をかがめて一本一本丁寧に収穫する中井氏に母良田氏が今年の出来具合などを尋ねていた。
中井氏曰く、今年は暖冬の影響でとても難しかったという。軟白独活を作るためには、独活がしっかりと休眠するための寒冷期が必要らしく、今期の冬は気温が思うように下がらず、予定よりもずっと早く芽が出始めたものが出てきたそうだ。そうなると株によって成長にばらつきが出て収穫時期に一様な長さにならないため、かぶせた「ムロ」に隙間を作って温度を下げたり毎日のように面倒を見てきたという。

「かじってみますか?」
そういって中井氏が収穫したばかりの三島独活を差し出した。

その1本を母良田氏が折って私にも分けてくれた。
かじってみると皮は少し繊維を感じるが歯でパリッと噛みきることができ、身はほんのりと甘く、さわやかな独活特有の香りが口に広がった。これが独活!? 自分の記憶にある、生の独活をかじった時に感じるエグミや苦みは全くと言っていいくらい感じられなかった。このまま食べても凄く美味しい!
「今期は雨も多くて上にキノコがいっぱい生えてきた」
そういいながら中井氏がかぶせられている藁の表面を照らすと、確かにひょろっとしたキノコがあちこちに伸びているのが見えた。

例年なら表面はもっと乾いているのだが、雨が続いたせいで湿気が多く湿っているのだそうだ。暖冬に雨・・・こうした気候に常に気を配らなくてはならない。電気の熱やホルモン剤などを使わない分コストがかからないというわけではなく、その逆で、干し草一つとっても極力外来種が混じらないよう古くから地元に生えている在来種にこだわって集め、ムロを作る手間だけでもかなりの労力がかかる上に、温度や湿度などの管理は経験と勘を頼りに試行錯誤しながら面倒を見なければならない。
ムロの下に育っている三島独活を撮らせてもらった。まるで大きな霜柱が地面を押し上げているようにも見えた。そして暗い中でも重いムロを押し上げて成長していく独活の生命力が感じられた。

収穫されたばかりの三島独活はほぼ真っ白だ。日光に長時間当たると光合成を始められるように表面が緑色に変わってしまうため光は禁物。収穫された三島独活は光に当たらないよう全体を包んで運び出される。

中井氏が次のケースに取り掛かっているなか、先に収穫されたケースを母良田氏と二人で車に運び、中井氏の家に運ぶ。
中井家で三島独活の出荷準備をお手伝い
中井邸は圃場から少し離れた集落の中にあった。
純日本建築の素敵な家屋で、中に案内されると今しがた母良田氏が運び込んだ三島独活を囲むように椅子が並べられ、そこに奥様である優紀さんの姿があった。

私は初対面だったので挨拶をかわした。母良田氏はもう何年も通われているようで、勝手知ったるなんとやら、といった感じだった。
椅子に掛けて様子をうかがっていると、優紀さんの向かいに母良田夫妻が座り、 優紀さんと同じように三島独活を手にとり刷毛のようなもので表面の土などを落とし始めた。
そうやって一緒に作業をしながら今年の出来具合など色々な話をする。いわば情報交換の場となっていた。

私も見ているだけではと、見よう見真似でやってみた。1本1本手に取って、丁寧に細かいごみなどを落としていく。数本程度なら大した仕事ではないのだが、もしこれを一人でやるとなると結構な手間だと思う。このほうきも手作りだという。

そこへ2ケース目の収穫を終えた大介氏が返ってきて、掃除が終わった三島独活を選別しながら梱包作業を始めた。
さらに若い男性が加わった。彼も何度も来ている常連らしく気さくにみんなと会話に加わる。みんなの話を聞くと、毎年この時期になるとこうやって母良田さんやこの三島独活に惚れ込んだ飲食店などの取引先の方が集まってくるのだそうだ。そこでいろいろな情報交換も行われる。中井さんの千提寺farmは三島独活を作ることで人と人との関係も育まれていると感じられた。

みんなで作業をしながら楽しく話しをていると、まだ小さな中井さんの息子さんたちも起きてきて顔を出してくれた。起きたばかりでも、仕事をしているお母さんをみてぐずることもなく、居間でおとなしく遊んでいるのにも感心した。
これが掃除を終えた三島独活。多少細いものもあるが、細いものは太い物とは違った美味しさがある。

さすがに総勢5人がかりでやるとすぐに作業は片付き、あとは梱包作業のみという事で、優紀さんが三島独活を短冊に切って試食させてくれた。
「梨のような・・・」という表現を耳にしたが、確かにサクッとした歯触りにほんのり甘味があり梨にも似ている。しかし、梨にはないこの清々しい風味がとてもいい。優紀さんがまた同じような短冊をくれた。こちらはさっきのよりも香りが強く、甘みが薄い気がした。そして少しだがエグミもあった。あとの方は穂先に近い部分とのことで、甘みは根元の太いところの方が強く、香りは穂先の方が強いという違いがよく分かった。
柔らかい朝日に照らされる三島独活。まさに別ぴんさんだ。軟白独活はスーパーで簡単に手に入るが、この伝統農法で作られ、これほどアクが少なく甘い独活はここにしかない唯一無二の独活なのだ。

母良田氏が、この裏山にフキノトウが出てるかも、というので、優紀さんに声をかけみんなで裏山に行ってみることにした。そこへは中井邸を通り抜け、まさに裏にある里山だった。
みんなで下を向いてどこかにフキノトウが顔を出していないか探しながら奥へと進む。そして、前はこの辺りに出ていたという辺りで既に塔立ちし花が開いているフキノトウが見つかった。やはり今年は暖冬でフキノトウも出るのが早かったようだ。

帰りに予約しておいた三島独活1kgとは別に自宅用にと包んでくださった。帰ったら早速いくつか料理して後日「旬の食材百科」に掲載させていただく事にする。
そして、この三島独活を知ってしまったからには、是非また来年も来させていただきたいと思った。この三島独活の栽培には「株主」というかたちで参加もできるそうだ。 年間一株5000円で、 中井氏のもと一緒に三島独活の栽培から収穫まで携わり、三島独活とともに人と人とのつながりも楽しめるとても素晴らしい活動だ。かなり興味をそそられる。
千提寺farm ホームページ https://sendaijifarm.theshop.jp/
独活(うど):旬の食材百科 https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/vegitable/udo.htm
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[…] 〇「三島独活の中井さん夫婦はこんな人」 https://foodslink.jp/agri2/?p=253 […]